本を読むように、光を見ることがある。
一瞬で通り過ぎてしまう街の灯りの中にも、
誰かの物語が潜んでいる気がして。
去年の冬、大井町の交差点で撮ったイルミネーションの写真を
スマホのアルバムで見つけた。
査定の帰りで、手にはまだ段ボールの匂いが残っていた頃。
風が冷たくて、指先が少し痛かったのに、
光だけはやけに柔らかく見えた。
【撮影場所:大井町】
街路樹にかかる小さな電球のひとつひとつが、
古い文庫本の活字みたいで、
その並びを見ていると、
誰かの記憶がそっと照らされていくような気がした。
たぶんそのとき、
「この瞬間を本の一節みたいに覚えておこう」と思って、
何も考えずにシャッターを切った。
本が好きでこの仕事をしているけれど、
買取の現場では“読むこと”よりも“見送ること”が多い。
お客様が手放す本をひと箱ずつ開けるたびに、
その人の人生の小さな章を覗いているような気がする。
どのページにも、少しの寂しさと、
それを超える優しさが書かれている。
だから私は、光を見ると本を思い出す。
イルミネーションは、誰かが過ごした時間を
静かに照らすための装丁のようなものだと思う。
その一瞬を見逃したくなくて、
今年もまた、夜道を歩くのが楽しみになっている。
去年の写真を見返すと、
忙しさの中にも確かにあった静かな時間を思い出す。
手放された本たちも、
いまはどこかで新しい読者の手の中にある。
灯りと同じように、
本も人の心の中でずっと光り続けるのだと信じている。
ページを閉じるようにスマホの画面をスリープにした。
外はもう夜。
風が少し強いけれど、
それもまた冬のはじまりの合図だ。











